漢方治療エビデンスレポート
日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポート/診療ガイドライン タスクフォース
9. 循環器系の疾患
文献
荒川規矩男, 猿田享男, 阿部圭志, ほか. TJ-15ツムラ黄連解毒湯の高血圧症随伴症状に 対 す る 二 重 盲 検 比 較 試 験. 臨 床 と 研 究 2003; 80: 354-72. 医 中 誌 Web ID: 2003184342 MOL, MOL-Lib
Arakawa K, Saruta T, Abe K, et al. Improvement of accessory symptoms of hypertension by TSUMURA Orengedokuto Extract, a four herbal drugs containing Kampo-Medicine Granules for ethical use: a double-blind, placebo-controlled study. Phytomedicine 2006; 13: 1-10. CENTRAL ID: CN-00553637, Pubmed ID: 16360926
1. 目的
黄連解毒湯の高血圧随伴症状に対する有効性と安全性 2. 研究デザイン
二重盲検ランダム化比較試験 (DB-RCT) 3. セッティング
大学病院および病院116施設 4. 参加者
選択および除外基準に合致した高血圧症265名。解析不能例61名、解析204名 5. 介入
Arm 1: 黄連解毒湯カプセル (ツムラ黄連解毒湯エキス末0.25g入り) 1日6カプセル分 3 103名
Arm 2: placeboカプセル1日6カプセル分3 101名 毎食前服用。投与期間: 8週間
6. 主なアウトカム評価項目
血圧降下度は観察期間後の2回の血圧値の平均値と治療期間終了後の血圧 (収縮期、拡 張期、平均) を血圧降下度と降圧有効率 (5段階) で評価。随伴症状の改善も評価。すな わち、興奮度 (いらいら感) 、精神不安、睡眠障害、のぼせ、顔面紅潮などについて-3 から+3までの7段階に評価。その他の自他覚症状として、頭重・頭痛、肩こり、めま い、全身倦怠感の症状についても上記7段階の点数で評価。
7. 主な結果
血圧降下度および降圧有効率には両群間に有意差なし。Arm 1において、のぼせ、顔 面紅潮に有意の有効性。その他の興奮、精神不安、睡眠障害などの症状についてもArm 2を上回る改善効果を認めた。その他の自他覚症状の総合判定 (点数) でも有意に改善。 概括安全度では、両群間に有意差を認めなかった。
8. 結論
黄連解毒湯の高血圧症随伴症状に対する有効性、安全性を認める。 9. 漢方的考察
参加者の選択基準には血圧値以外の基準で黄連解毒湯の証に一致する随伴症状の有無 を取り入れた。随伴症状としては興奮 (いらいら感) 、精神不安、睡眠障害、のぼせ、
顔面紅潮の少なくとも一つである。また除外基準のひとつに、「漢方医学的に寒・虚証
(体力が低下し、やせ型の人) と考えられる患者」という項目も入れられた。漢方医学 の証をbody-mass index (BMI) のみでは表現しきれるわけではないが、本研究では体格 のやせ型のものは除外項目とされ、本研究の対象患者の平均値は24.3であった。これ らの選択基準や除外基準を入れたことで、より黄連解毒湯が有効な参加者に絞った検 討になるようにデザインされた。
10. 論文中の安全性評価
副作用の発生率はplacebo群で8名 (6.3%) 、黄連解毒湯投与群で15名 (11.5%) であっ
た。黄連解毒湯と関連の可能性のある副作用は、吐気 2名、肝機能障害など検査値異
常は7名、全身の発疹1名であった。 11. Abstractorのコメント
漢方薬の中で高血圧に用いる漢方薬の代表が黄連解毒湯で、本論文は再評価に関する 原著である。ストレスなどの交感神経過緊張の状態に関連した症状 (怒り、緊張、不安、 心配) などを目標とする。今回、複数の施設での二重盲検比較試験での評価では、血圧 値においては低下傾向であったが、placebo群との間に有意差を認めなかった点は残念 であるが、いくつかの随伴症状において有意差を認めている画期的な研究結果である と考えられる。参加者の診断基準が違うため単純な比較はできない点はあるが、本態 性高血圧症に対するbenzodiazepine系抗不安薬の他の検討と比較すると、黄連解毒湯は それを上回る結果を示していたとのことであった。証を考慮した治療は有用である可 能性が示されたと思われる。
12. Abstractor and date
並木隆雄 2007.6.15, 2008.4.1, 2009.3.13, 2010.6.1, 2013.12.31